バイロン・ケイティのワークが千葉大学大学院医学研究院と共同で実証研究された
うつ病体験を経て始めた研究医療外手法の効果検証を進めるべき
経済産業研究所 関沢洋一・上席研究員に聞く
2013年11月19日(Tue) 海部隆太郎 (ジャーナリスト)
経済・産業の発展とエネルギー確保などを担うのが経済産業省。その所管となる独立行政法人の経済産業研究所 (RIETI)は、研究成果を政策に反映させる役割をもつ。その中で関沢洋一・上席研究員は、心の問題のメカニズム、経済に与えるマイナス要因と対処法な どを研究する。うつ病が及ぼす経済的損失は、生産性だけでなく消費行動にも及び、経済成長にも深く関わる。この視点からの考え方とうつ症状を減らすため、 取り組むべき考え方などを聞いた。
関沢洋一(せきざわ・よういち) 1988年東京大学法学部卒業、1994年スタンフォード大学政治学修士修了。経済産業省資源エネルギー庁、通商政策局を経て2006年から東京大学社会 科学研究所准教授。08年通商政策局に戻り12年5月から現職。主な著作物に「日本のFTA政策:その政治過程の分析」(東京大学社会科学研究所)、共著 に「感情が消費者態度に及ぼす影響についての予備的研究」(行動経済学2012年)、「紹介 バイロン・ケイティのワーク」(精神医学2012年)など。
以下 抜粋
質問:本質的な抑うつ症状の改善は、医療以外の違うところにあるという考え方は、よくわかります。その途を探られ、どのような結果を導き出されたのでしょうか。
関沢:セドナメソッドに続いて、セミナーで知った「バイロン・ケイティのワーク」という手法に着目しました。こ のメソッドは、自身もうつ病患者だったケイティというアメリカ人女性が作り出したもので、認知療法に似ています。この手法を試すうちに、認知療法の本当の 意味を初めて理解できたのです。
「バイロン・ケイティのワーク」を知った時、精神医療に関わる人たちに知られていない、もしくは無視されているかもしれない手法の中に、本質的な改 善をもたらす効果が得られるようなものがあるのでは、と考えました。それならば効果検証をして、本当に効果があるのなら、世の中に広めてもいいのではない か。そのような問題意識が芽生えたのです。「バイロン・ケイティのワーク」に関しては、千葉大学大学院医学研究院と共同で実証研究を行い「精神医学」誌上 で発表しています。
さらに、それまで気が付かなかったのですが、人間の思考は多くの場合、現実離れした歪んだものになっていて、これが様々な社会現象を起こしている のではないか。社会科学は前提として「人間は合理的である」という仮説を立て現象を説明しているが、これは違うのではないか。人間の行動の多くは怒りや恐 怖で動かされている、とみれば社会現象の多くは、認知療法の思考と感情のメカニズムで説明できます。問題のある社会現象は、認知療法を使うことで解決でき るかもしれない。それを研究したいと考えたのです。
―― 認知療法がすべての人に適応できることなのか、私自身は消化不良の状態です。認知療法について、もう少し説明していただけますか。
関沢:認知療法の基本的な発想は、思考が感情に影響を及ぼすというものです。思考とは、頭の中を流れている声で す。それを信じると感情が伴ってくる。「私は価値がない人間だ」という声を信じれば憂鬱になるし、「もうすぐ解雇されるかもしれない」と思えば不安でどう しようもない状態になります。それらの思考の大部分は現実離れしたものなので、感情の背後にある思考を見つけ出して、それが正しいのかどうか、合理的なの かどうかを検証する。これが認知療法です。
思考に向き合うことで感情を変えることができるという感覚は、どんなに学問的に探求してもわからず、自分自身で認知療法を体験しないとわからない と思います。私自身は「バイロン・ケイティのワーク」を行った時に初めてその感覚をつかみました。認知療法を体験するには、うつ症状になっている必要はな く、日常レベルの感情に対して取り組めるので、感情がない人を除けば全員やれることです。